これって「食育」?子供の広場の「食育イベント」は「販促イベント」
江戸川区西葛西の公園「子供の広場」で開催された「食育イベント(正式名称:子供の広場 食育フェスタ)」についてご紹介する前に、まず「食育」とは何か?農林水産省のサイトから引用させていただきます。
食育は、生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付けられるとともに、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てるもの。(農林水産省)これが食育の定義です。
では以下、子供の広場で2025年9月14日(日)に開催された、子供の広場・食育フェスタ(以降「食育イベント」と記載)の様子をご紹介します。
なおこの食育イベントは、江戸川区・水とみどりの課・課長が、江戸川区議会で「子供の広場は教育の場である」とするために実践すると説明していたイベントです。
江戸川区が運営する「総合レクリエーション公園・新左近川親水公園」の公式サイトにも、このイベントの告知が掲載されています。
【子供の広場】9/14(日)食育フェスタ開催のお知らせ
公式サイトには、「食と関係の深い公園として、ご利用いただく皆様に楽しみながら学んでいただき、江戸川区の未来につながる“食育”イベントを開催いたします。」と、記載があります。
子供の広場を「教育の場」とするためのイベントは、2025年5月以来、4ヶ月ぶりの開催。ちなみに前回のイベントは、子どもも含めた参加者全員から1000円を徴収して行うイースターイベントでした。
さて、では今回の「食育イベント」の様子をご紹介しましょう。
1.飲食店の名前を答えさせるのが、江戸川区の「食育」?
「子供の広場で穴子が食べられるお店の名前は、なんでしょう〜〜〜〜?」
スタッフに質問され、黄色いアスファルトの上に広げられたすごろくマットの上で、大きなサイコロを胸に抱えてとまどう表情のお子さん。そばに立っていた保護者のかたが、あわてたように、穴子料理を提供する飲食店の名前をお子さんに教えていました。
江戸川区の公式サイトによると、このすごろくの名は「食育巨大すごろく」。
しかし、食育巨大すごろくで子ども達に繰り出される質問は、どう見ても「食育」とはかけ離れた質問ばかり。
「子供の広場でサンドイッチが食べられるお店の名前は?」
「子供の広場にはタイ料理店とバルがあるよ!タイ語でごちそうさまは何という?フランス語でごちそうさまは何という?」
「子供の広場の焼肉店では⚫︎⚫︎と一緒にごはんを食べられます。⚫︎⚫︎とは?」(正解は「イヌ」)
食育巨大すごろくには、11個のマスがあります。上記4つの質問以外のマスには、「おさらには食べる分だけもりつけよう」「それぞれの食べ物にあった保存をすれば長持ちするよ」など、確かに食育らしい知識がならんでいます。
飲食店名などのマスだけ、必ず止まりクイズが出される |
一方、「お店の名前は?」など、子供の広場の飲食店についての質問が書かれた4つのマスは異なります。上記写真の通り…
1)食育的知識のマスは「白色」、飲食店名等のマスは「オレンジ色」で強調されており、参加者により印象づける工夫がされている
2)食育的知識のマスは「知識」、飲食店名等のマスは「クイズ」になっており、参加者により印象づける工夫がされている
3)飲食店等のマスは、すごろくの出た目に関わらず絶対に止まらなければいけないルール
つまり、「このイベントの参加者全員に確実に印象付けようとしているのは、飲食店のPRのみ」という仕掛けがこの「食育イベント」だったのです。
2.パークPFIリニューアル後、公共の公園で「食育」の名を冠した販促イベントが行われるようになった、ということ
食育巨大すごろくでゴールまで進めば、「レスキューキッチンカー®」が提供するカレーを無料で食べられるという仕掛けでした。
各飲食店の店内、冷房の効いたテーブルで食事をしている客にガラス一枚へだてた隣りで、飲食店の外の黄色いアスファルトの上に並べられたテーブルにつき、9月上旬、まだ残暑のカンカン照りに照らされながら無料のカレーを食べる参加者の方々。
このイベントは、子供の広場のリニューアルを行った大和リースがイベント会社に委託して開催したものだそうで、江戸川区の職員の方もお忍びで観に来られていました。
イベント開催の資金は一切、大和リースの出資だそうで、税金は使われていないと推測されます。
しかし、大和リースが本来事業として利用してよいのは「店舗」の敷地です。その外側(黄色いアスファルト部分)で、江戸川区がイベントの内容まで踏み込んで許可を出していたとしても、江戸川区運営の店舗外で「食育」と銘打って、実は「その主目的は店のPR」であるイベントを行うことが、果たして公共の公園にふさわしいのかどうか。
ある保護者の方はこのイベントを見て、「基本的にウチは外食でなく持参派。飲食店はスルーしたいほうだから、飲食店をPRされても困るね.....」とおっしゃっていました。
お子さんが「食育イベント」に参加される保護者が期待するものは、一般的には農林水産省の「食育」の定義通り、「食べ物を大切にする」「自分の体に入る食べ物を管理する」教育でしょう。
そう思って、江戸川区立公園で開催される「食育イベント」に参加してみたら…?
このイベントの唯一のタスクであるすごろくの中身は、子どもが、昼間からお酒を提供している店の名前や、「穴子」「サンドイッチ」「タイ料理」「バル」「焼肉」というワードを聞かせられたり、答えさせられたりするもの。
子どもはすぐに記憶します。
他の本来の「食育」のマスは、すごろくの目がでなければ飛ばしてもよし。主催者にとって大事なのは、オレンジ色のマスに子どもが必ず止まり、子供の広場の飲食店の名前や特徴をしっかりと覚えることです。
そうはいっても、「カレーは無料だし、いいじゃない」「ここで波風立てても」「お店のPRでも構わないのでは?」という方も、いらっしゃっることでしょう。
その通りです。
一般的に、店(企業)が行う販促イベントに、店や商品のPRが入っていても、私たちは何の疑問も違和感も抱きません。それはそういうものと、わかっているからです。
例えば「スーパーABC」という店が、キャンペーンの一貫で店頭でクイズ大会を開催、正解するとお菓子がもらえるとします。
もちろん参加は無料です。子どもたちはもちろんやりたがり、大人も足を止めます。
クイズは、「いつも新鮮で安い!スーパーA○C」「さて○に入る文字はなんでしょう?」という問題で、「○=B」と答えればお菓子がもらえます。
こうして、店名を記憶させるという広告・販促活動です。何の違和感も不思議もありません。企業の活動だからです。
今回の「食育イベント」に違和感を感じるのは、これが江戸川区公認の「食育イベント」として、公共の公園で実施されているという点です。
この「食育イベント」に参加したお子さんが、「子供の広場のお店で穴子が食べたい!」「サンドイッチが食べたい!」「バルって何?」「お酒っておいしいの?早く飲んでみたい」と、保護者の方におねだりし、さらにお子さんが成長した暁には、子供の広場にお酒を飲みに来るようになったら....この「食育イベント」は大成功というわけです。
飲食店が無かったころの、リニューアル前の子供の広場は、子どもたちは豊かな木陰に守られながら、遊び方を大人に定義されることなく、自分たちの自発的な思いに従って、のびのびと遊んでいた自由広場でした。
それが「子供の広場」でした。
2009年8月 「子供の広場」の自由広場 |
その同じ場所が、パークPFIによるリニューアルで、一本の草も生えない黄色いアスファルトに覆われ、「大人のビジネス」の匂いしかしないヒートアイランドに変わった様が良くわかる江戸川区の「食育イベント」でした。