実証!残すべきだった「緑と土」。ヒートアイランドでは遊べない
1.パークPFIリニューアル後、初めての夏を迎えて
毎年平均気温が上がる一方の日本で、「命にかかわる災害級の暑さ」をどう緩和するか。都市設計の観点から検討する記事も注目されています。
<参考>8月の東京は灼熱だった!安住アナ「湾岸の高層マンション全解体」発言から考える、未来の東京を涼しくする選択肢。
ところが今年の夏の「子供の広場」を見ていると、江戸川区がパークPFI方式で行った公園のリニューアルは、「災害級の暑さから生命を守る」という観点の、まさに真逆を追求しているのではないか?とすら感じさせます。
その傾向は、特に東側の自由広場(現在は飲食施設)において顕著です。
かつて、うっそうと繁り広場を覆っていた南側の木のほとんどは伐採され、残されたのは一本だけです。この木も、枝の間の葉はまばらで、木陰は望めません。
(写真は、一本だけ残された木がつくる、わずかな「木陰」。黄色いアスファルト部分は遮るものがない直射日光にさらされている)
さらに、かつて子どもたちが遊んでいた土の広場の全面を黄色いアスファルトで覆い、その上にガラス張りの飲食店街(大人向け飲み屋が半数以上)を2棟、合計7軒分が建設されました。
私たちはリニューアル工事が始まる前、江戸川区担当者との話し合いの場において、「この建設計画では、公園が灼熱化する。夏は遊び場どころではない」「涼もうとすれば、飲食施設に入るしかない」と指摘しました。
しかし、江戸川区は「地面をアスファルトで覆う計画は変更不可」と回答し、計画に変更はありませんでした。
そればかりではなく、江戸川区が区民に非公開で入居を決め、現在開業している店舗のほとんどが、日中からアルコール提供を行う飲食店で、子どもや高齢者が気軽に利用できないものでした。
2.東側(店舗)、西側(遊具)、それぞれ地面温度を測定
そこで私たちは、酷暑が続く2025年8月23日の午後2時半、現地の2か所で温度の測定をしました。
1)東側:黄色いアスファルト舗装の上
2)西側:従来の植生と土がそのままになっている地面の上
それぞれまず直射日光があたる「日なた」に温度計を置き、さらに各測定位置から「直近の日陰」でも測定しました。どちらも、温度計の液体の上昇がピークとなったことを確認し、温度を記録しました。
日なたの結果です。
<日なた>
東側アスファルト上 43.8度
西側地面上 45.2度
意外でしたが、私たちの測定では、日なたでは東側アスファルト上の方が西側砂地上より少し温度が低かった。
ところが、日なたの測定場所から移動し、直近の日陰で測定した結果は驚くほどの差を示しました。
<直近の日陰>
東側アスファルト上 40.1度
西側地面上 34.8度
アスファルトで覆われた東側では、日陰でも温度が下っていません。アスファルトによる蓄熱効果、すなわち「ヒートアイランド化」と考えられます。西側も、日なたは確かに暑いです。しかしリニューアルによる木の伐採は最小限だったため、木陰に覆われる時間になると、子どもたちや家族連れが遊んでいます。
それに対して、東側の店の外には日中、じっくりと滞在する人はほぼおらず、まして子どもたちが遊ぶ姿など見かけることはありませんでした。黄色いアスファルトのギラギラとした照り返しと、足元から立ち上る熱を避けるかのように、足早に通り過ぎる人々のみです。
3.飲食店のバックヤードから流れ出る排気と熱気
パークPFI方式リニューアルによる「子供の広場」の真夏の環境変化は、ヒートアイランド化だけではありません。
「飲食店の排気と熱気」です。
「子供の広場」の北側には、かつてあった自由広場に沿って、歩道が設置されています。
ここは西葛西駅と清新町方面などとの往還の人々が行き交う道であり、同時に歩道沿いのベンチには、目の前に広がる広場を見ながら、座って憩う人々がたくさん見られました。
しかし今回、飲食店用の建物(江戸川区の説明によれば「フードコート」と称する)が広場に建てられたことにより、歩道と広場は分断されました。
しかも「フードコート」のバックヤードは、全面、歩道に面しています。
店の営業中に歩道を通ると、さまざまな調理の臭いを含んだ排気も浴びることになります。さらにこの猛暑の中、店内を快適に保つためのエアコンの室外機は、もわっとした熱風を吐き続けています。
広場には、反対側にもう一つ棟があり、こちらは江戸川区によると「レストラン」と呼ぶそうですが、これが「フードコート」と向かい合わせで建てられています。よってレストランのバックヤード側…つまり球場方面、歩道橋などがある放射16号(清砂大通り)側の一般歩道も、同じように調理臭と室外機の熱気を浴びる状況に陥っています。
子供の広場が1月にリニューアルオープンして迎えた、初めての夏。
飲食店バックヤードの臭いと熱気が、子供の広場の北側、南側両方で強烈な状態になっており、「今まであの公園の歩道を通勤・通学で通ってきたが....もう、行きたくない場所になってしまった」という声が聞かれるようになりました。
(写真は、飲食店建物と木塀の間の空間。この空間に、各店舗換気扇からの調理臭と、エアコン室外機の熱気が滞留し、木塀の上下から歩道に漏れ出ている)
4.面積12%の飲食施設によって、公園本来の機能がそれ以上に喪失
実はパークPFI条例では、「事業者が商売に使える面積は12%まで」と決まっています。したがって、「子供の広場」の飲食店街の建物の面積は、店のひさしの下までを含めて計算上はその範囲内です。法的には問題ありません。
しかし、その計算に含まれていない「レストラン」と「フードコート」に挟まれたスペースは、アスファルト舗装もあいまって、誰が見ても「飲食店に入るためのプロムナード」であり、結局のところ、公園(人々の憩いや遊び)のために使えなくなった場所は、法律で規定されている12%よりもずっと大きいのです。
建物面積は法律を守っていても、店を建設する場所の設計次第で、こんなこともできてしまうのです。
ではそうしないためには、誰が、何をすべきだったのでしょうか?
江戸川区はリニューアルプラン策定の段階で、設計思想の中心に子どもたちをはじめとする従来の公園利用者を据えていたのでしょうか?そのプランが真に公園利用者のためになるのか、熟考したのでしょうか?また利用者の声を、真摯に聞く耳を持っていたのでしょうか?
公園本来の機能を維持・増進しつつ、民間参入による店舗収益を運営に活かしていくというパークPFIの基本理念を、江戸川区は理解し、それを事業者とともに公園設計に反映したのでしょうか?
何か本質的なことを置き去りにしたまま、リニューアル計画を進めたとしか思えません。
いま飲食施設の利用者が、公園を公園として、本来の目的で利用している姿もほとんどみかけません。黄色いアスファルト部分は、飲食店に出入りするための単なる「通路」になっています。
「子供の広場」の12%どころか、ほぼ半分がもはや「公園」ではなく、企業の商用地になった。
それがリニューアルして8か月経過した、地元住民の実感です。
いままで自由に遊んだりくつろいだりしていた場所がつぶされて、駅前繁華街がひとつ増えた、というのが正直な感想です。
さらに西側の遊具広場では、遊具スペースに食い込んで「駐車場」が新設され、子どもたちが遊んでいる場所の真横、隙間だらけのプランターで仕切られた場所に車が頻繁に出入りし、排気ガスがまき散らされています。
江戸川区は、「子供の広場のにぎわい施設の内部や広場を、多くの子どもたちが集う”教育の場”とする」と発表した上で、店の内容は江戸川区民に「口外できない」と発表を拒否して、計画を実行してきました。
地元住民の怒りの声を無視し続ける齋藤猛・江戸川区長や江戸川区のご担当の皆様に、私たちは何度でも言います。
公園に必要なものは木と土であり、店とアスファルトではありません。
駅前の小さな都市公園だからこそ、なおさらです。
江戸川区長および江戸川区ご担当者の皆様は、真夏の炎天下、日光を遮るものがほとんどない黄色いアスファルトの上で、ぜひ一度、憩ったり遊んだり長時間過ごしてみてください。
あるいは飲食店のバックヤードの壁と木塀で眼前を遮られながら、換気扇からの調理臭とエアコン室外機の熱気を浴びながら、ベンチでのんびりとくつろいでみてはいかがでしょうか。
(日没後の東側に近づくと、夜になってもムワっとした熱気に包まれる)